ニュースリリース

<月刊 食品工場長 2009/10/01 日付 32面掲載>

企業インタビュー:成田食品・佐藤信一郎専務取締役

650億円のモヤシ市場をリードする成田食品。きめ細かな管理や大規模な設備投資に圧倒される。工場の図面を描き、ISOの書類を作ったのは弱冠34歳の 若き専務、佐藤信一郎氏だ。過去にとらわれずに現在と未来を見つめる佐藤氏の語り口からエネルギーがあふれ出すかのようだ。

◆関東地区D0実現のために栃木工場を稼働

--福島の本社工場、岐阜工場に続き、この栃木に第三の工場を建てたのはどんな理由ですか。

▼佐藤
8年ほど前、販売先の6割が関東になり、福島県と岐阜県から供給していました。いずれは関東で迅速な対応ができる生産拠点が欲しいと考えていた矢先に、関東地区の生協の共同購入品をD0(デイゼロ/製造日納品)で納入する話を受けることになりました。
当初は福島工場からの配送で、関東地区朝8時が納入時間だったので、深夜0時を回ると同時にラインを動かし、3時半には工場から出荷していました。一分一 秒を争うような日々です。無事故無違反欠品なしでなんとか頑張りましたが、ずっと不安でした。日配品ですので、人が休んだり、渋滞があったりしたら間に合 わないという綱渡り状態でした。
そんな中、関東の一部の量販店からもD0を求められることがあり、会社の戦略として、関東地区にD0で供給できる工場を建てようということになりました。
いろいろ探して、水も豊富であったことから、この地を選びました。ここであれば一都六県どこでもたいてい3時間で到着できますから。

--佐藤専務が工場の設計図を書いたそうですね。

▼佐藤
1カ月ほど実務から離れて、いろいろな工場を見学して回りました。そして土地が見つかる半年前から設計図を描き始めていました。工場の規模は決まっていたので、建てたい工場に合う土地を探しました。

--投資額はおいくらでしたか。

▼佐藤
土地、建物、設備合わせて50億円掛かりました。サニタリー面で既存工場と差が出てしまいましたので、栃木を見たお客さまに本社や岐阜工場をご案内しづらくなり、この2年でこの2工場もリフレッシュ工事し、同じような設備にそろえました。

◆監査で指摘されたことをすべてクリアする工場

--工場を設計したころ、専務は20代半ばの若さですが、すでにモヤシ製造についてはそうとう知識がおありだったのですね。

▼佐藤
知識としてはなかったのですが、子どものころから会社の事務所が遊び場で、高校生のころから会社でアルバイトしていましたから、なんとなくモヤシ作りを理解していたというところでしょうか。
入社してからは、納品先である在日米軍や量販店の監査に私も立ち会って、その指摘事項のメモを残していたのです。ですから、設計図を描くことになったとき 「それをクリアする工場を建てればいいのだ」と考えました。「せっかくだから全部クリアしてやろう」という気概で設計したのです。設計図なんて描き方どこ ろか見方も分かりませんでしたから、方眼紙を前にしていろんなパーツを紙で作って「ああでもない、こうでもない」と配置を考えたりしました。

◆ゾーニングと温度管理は譲れないポイント

--大規模な投資に社内の反対はありませんでしたか。

▼佐藤
当然、父親の社長からは反対されました。認識的にあいまいなモヤシ製造で、ここまで衛生に特化した工場を建てる意味はあるのかという議論はありました。
あいまいという意味ですが、02年3月に日本標準産業分類が改訂されました。それまでモヤシ作りは食品製造業に分類されていたのですが、野菜作農業に移行 したのです。法律さえ動くほどですから、お客さまもモヤシを野菜ととらえたり、惣菜基準ととらえたり、認識がばらばらなんですね。
そうはいっても私は野菜であろうが、惣菜であろうが、当社としてしっかり衛生的なモヤシを作っていかねばならないのではないかと訴えたのです。
ISOやHACCPもいろいろ勉強しました。とにかくゾーニングと温度管理はしっかりやりたいと思いました。その一方でやり過ぎると難しい面も出てきますね。
結局お金を掛け過ぎましたが、監査で、大きな指摘を受けることはありません。見学通路を設けて、子どもたちの見学も受け入れることができます。衛生的だからこそ自信を持って見せることができるので「ああ、造ってよかったな」と思いました。

◆豆がらが付いていないモヤシ

--モヤシの栽培はどのように管理してますか。

▼佐藤
豆の段階で温湯殺菌処理していますが、殺菌後の豆は温度管理と水の管理だけで当社独自の機密性の高い育成室で育てられます。ここに至るまで研究と失敗の連続でした。このような経験があるからこそ、今の育成環境と設備があるのだと思います。

--10日間育成するモヤシはほかのモヤシと何が違いますか。

▼佐藤
ゆっくり育つと豆の栄養が十分モヤシに移るのではないでしょうか。外国の製造者から「10日でモヤシを作るにはどうしたらいいですか」と聞かれるこ とがありますが、それは豆の状態や設備、育成管理などいろいろな条件の中で、当社にとっては10日がベスト。10日かけるから良いモヤシというわけではな いのです。
ちなみに良いモヤシは、モヤシに豆がらが付いていません。豆がらがモヤシから外れないということは、まだ豆に栄養が残っているということです。豆がらが付いてないモヤシを選んでください。


◆コストダウンのためにアイテム増

--今後シェア拡大の方策はいかがですか。モヤシの付加価値をどのように上げていこうと思っていますか。

▼佐藤
付加価値で値段を上げたいとは思うのですが、今は逆ですね。いかにコストを下げるかに注力しています。
確かに「成田食品のモヤシはおいしい」とお客さまに言っていただけるのですが、その後に「でも高いよね」とおっしゃる。うちは業界で一番高いのです。
このご時世ですから、消費者はやはり安い物を求めます。市場調査したことがあるのですが、残念ながら「成田食品のモヤシ」と認識して選んでくださる消費者 はまだまだごく一部です。行ったスーパーに置いてあるモヤシを買うのであって、成田食品が置いてある店にわざわざ足を運ぶお客さまは少ないと思います。価 格を下げることばかり考えるのは企業の本意ではないと思いますが、今の環境では価格を下げることに注力するのは致し方ないかと思います。
そこで、他社はコストを下げるためにアイテムを減らしているのですが、うちは逆にアイテムを増やしています。空いた棚を取りに行くためです。当社は供給範 囲が広いので、物流コストが掛かります。それを抑えるために一店舗に納める商品数を増やしたいのです。これは打って出るコスト削減ですね。
今は、市場の9割が緑豆モヤシですが、当社はほかの2工場で「黒豆モヤシ」も作っておりまして、これが前月比2割で伸びています。ほかの工場での育成です が、増設をかけています。黒豆モヤシは「ブラックマッペ」という豆から育成するのですが、甘くて細くて水分が少ないので、広島のお好み焼きなどに合う品種 です。

--緑豆の供給元が中国だけということに関してはいかがですか。

▼佐藤
かつて中国以外の国も模索したのですが、品質面・価格面で今はやはり中国が有利ですね。トレースはもちろんしっかりやっています。


◆一番だと思ったら負け

--ISO9001は既に認証取得済みですが、22000についてはいかがですか。

▼佐藤
高く買っていただけるのであればチャレンジしますが、今のご時世では難しいでしょう。
9001で十分管理できていますし、金属探知機や色彩選別機は既に取り入れていますので、特にISO22000導入の必要性を感じていません。
ちなみに当社の記録付けやマニュアルは相当細かいですよ。審査員に驚かれたほどです。それは品質管理だけでなく商品管理も記録に入れているからです。また3工場統一していますから、他工場に応援に行ってもすぐに作業になじむことができます。

--今後の抱負をお願いします。

▼佐藤
現在、モヤシのシェアは当社が一番かもしれませんが「一番と思った時点で負けだ」といつも戒めています。他社も必死で生き残りを懸けているのですから、気を緩めるわけにはいきません。
それから社長の口癖は「他社ができてうちができないはずがない」なんです。ですから、現場には無理をお願いしますが、他社ができることはやった上で、自社にしかできないことをしているのが当社の強みですね。
それから行動が速いのも当社の取りえです。一つ工場が建ったと思ったらもう次の工場を建て始める感じです。こういう強みを生かして、「成田食品のモヤシだから買いたい」と言っていただけるお客さまを増やしていきたいですね。

専務取締役:佐藤信一郎
1974年生まれ、福島県出身
1998年帝京大学卒
2001年成田食品(株)入社

プチインタビュー:
栃木生産本部 工場長・鈴木与市氏

--今の工場の一番の課題は何ですか

▼鈴木
日配品ですので、安定した品質の物をその日のうちにお届けするというのが日々の課題です。モヤシは育成に10日掛かりますから、先を読んで仕込みを していかねばなりません。在庫が持てないので、足りなくても困るし、余っても困ります。生産計画に基づいて、人繰りも1カ月前には決めねばなりません。
受注の締め切りは出荷当日の夕方4時ごろですから、過去の出荷を見て見込みで生産していますが、今年のように天候が不順で葉物野菜が高騰すると、置き換え として途端に注文が増えますから要注意です。細かく毎日生産を見直していきます。当社は規模が大きく生産設備にゆとりがありますので、対応が可能ですが、 毎日が修正の繰り返しですね。欠品したら取引先を失うことになりますから。

--欠品したことはありますか。

▼鈴木
ヒューマンエラーでの欠品はありません。一度台風が九州から本土まで吹き荒れたときだけ、ほかの野菜がなくなってしまったので、3日間だけは数パーセントカットしたことがありました。あの時は営業は社内に待機、3工場は作っても作っても間に合わなかったですね。

--人材の採用についてはいかがですか。

▼鈴木
当社は365日2直稼働です。正月も休みではありませんし、夜勤もあります。それを納得した人だけ採用しています。パートさんも土日出勤できない人はお断りしています。日配品工場の特性を理解した上で入社していただくので、その後の教育もスムーズだと感じています。

--今後の抱負をお願いします。

▼鈴木
操業時から比べると人員も4倍になりました。このように拡大する中で、安定供給および品質の一定化をなお一層図っていきたいと思います。そして「成田食品に入ってよかった」と従業員に思ってもらえる工場にしたいですね。

栃木生産本部 工場長・鈴木与市氏

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